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  041
  数珠における蓮実の感触?

 数珠は穴を空けた珠を撚紐に通した、多くは仏教の僧侶が用いる法具で、真言や念仏を唱える際の数取器です。(カトリックの祈りでもロザリオを使う)宗派によっては、法要の時に導師が擦り鳴らす音を耳にしたこともあるでしょう。
 通説では百八個の珠が、煩惱の数を表しているとされていますが、教学的に確かなことは不明です。
 我が国に於いては、鎌倉時代に念仏講が広まると一般大衆にも普及しました。これが他の宗派の信徒にも波及し、仏を礼拝する際、故人を偲び供養する時に、手にかけて参拝、読経などをするようになって行ったのです。
 このため、簡略化した半数の54珠、3分1の36珠、4分の1の27珠、六分の一の18珠のものが現れ、最近では、珠サイズや手首回りを考慮し、適当な珠数にするものまで様々作られてきました。古くは菩提樹の実等の、木の実を用いていましたが、水晶、金属、石、木材、貝殻、珊瑚、琥珀、真珠、樹脂等、実に様々な素材が使われています。
 乾燥した蓮実は、径10o〜14o、長さ18o〜20o程度と数珠玉に適したサイズです。表皮の厚みが1oもあり、非常に固
く、穴を空け紐通しすると素朴な数珠になります。 
 蓮実の表皮は肌理細かく滑らかで、鉱物にはない温もりが感じられます。この「皮膚感覚」には、さすが、二千年もの歳月を生き抜く(大賀蓮)生命の威厳があります。
 実の加工は、ドリルなどで縦方向に、直径1o程度の穴を空ければ済みます。問題は内部の折畳まった芽が砕け、穴が広がり胚乳に虫食いが起こることです。数珠職人が制作する製品では、特殊な刃物で胚乳を削りだし、膠を充填するなど、長期品質保持の実加工が施されていました。
 桧や丁字等を細く削り、木工ボンドなどで穴から実の内部に接着してやると、長期に渡って防虫効果を発揮します。器用な方はチャレンジしてみて下さい(T)。

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  042  荷葉という、薫物があるそうですが?

 薫物(たきもの)とは、お香のことです。左(次頁)の写真が、その荷葉(かよう)です。荷葉は、梅花(ばいか)や菊花(きくか)などとともに六種(むくさ)の薫物(たきもの)に数えられる名香です。ちなみに梅花は春、荷葉は夏、菊花は秋、のお香です。
 千年紀の『源氏物語』がよく話題になっています。その「梅枝」の巻では、花散里(はなちるさと)が荷葉を調合すれば、「しめやかなる香して、あはれに、なつかしい」と書かれています。
 その荷葉の成分ですが、12世紀の『薫集類抄』によれば、沈香(じんこう、樹脂)が半分以上で、白檀(びゃくだん、幹)、丁子(ちょうじ、花)、甘松香(かんしょうこう、根)、霍香(かくこう、葉)などです。
 楽しみ方はこうです。荷葉を、蜜などで練りあわせ、0.7ミリ大の粒にします。それを、火取母(かとりも、香炉)に置きます。あらかじめ香炉の灰は香炭団で暖めておきます。待つことしばし、室内には、清楚かつ清涼感のある荷葉の芳香が漂います。これが空薫物(そらだきもの)です。この香りを衣類にうつせば、それは衣香(えこう)です。
 こうした香道(こうどう)は、鑑真に代表される中国の先達たちによって伝えられました。それは奈良から平安にかけて、宮中で楽しまれながら、日本の四季や環境に適合し、しだいに日本人の微妙な生活感情を表現するようになりました。そして室町期に確立、今日にまで伝わっています。
 視覚と聴覚の情報があふれる現代ですが、お香は、嗅覚の芸術ともよばれます。その材料は自然のもので、繊細でありながら、大らかな優しさがあります。私たちの情緒や精神性を豊かにしてくれそうで、期待がもてます(KA)。

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  043
  
蓮の線香には、どんなものが?

 かなりの種類があります。写真はその一部で、上の2つがインド産、下がフランス産です。その評判は、価格とも関係するのですが、上はやや化学的香りがし、下はかなり自然な蓮の香りで、下のほうが圧倒的に好評でした。
 直径わずか1〜2ミリ、文字どおり「線のよう」に細い、線香です。それに点火すると、白ないし紫の煙がたち上り、芳香が漂います。五感のうちの嗅覚と視覚は、それに吸いよせられ、精神もリラックスを始めます。
 線香を、英語では incense 、中国語では線(条)香といいます。日本の線香の源については諸説ありですが、一般には、インドや中国でいまも用いられている竹ひご線香が有力です。それは細くけずった竹に、線香の生地をぬり、乾かしたものです。
 線香の生地(きじ)は、その用途により大きく2つに分けられます。杉の葉を乾燥させ、粉末にし、のりを加えて練り、線状に成形した後、乾燥します。これが杉線香で、お盆の墓参りには必需品です。
栃木県日光市は杉線香の生産では日本一です。
 2つめは、匂い線香。こちらの主原料は椨(タブ)の樹皮です。タブはクスノキ科の常緑樹で、温暖な地方の海岸に自生し、高さ十
数メートルになります。幹は建材や家具に、葉や樹皮は黄八丈の染料に。そのタブの樹皮を粉末にし、白檀や伽羅(きゃら)など香木の粉末、炭の粉などを加えて練り、成形・乾燥させたものが、匂い線香です。日本の匂い線香の7割は、兵庫県の淡路市で生産されています。
栃木県日光市は杉線香の生産では日本一です。
 2つめは、匂い線香。こちらの主原料は椨(タブ)の樹皮です。タブはクスノキ科の常緑樹で、温暖な地方の海岸に自生し、高さ十数メートルになります。幹は建材や家具に、葉や樹皮は黄八丈の染料に。そのタブの樹皮を粉末にし、白檀や伽羅(きゃら)など香木の粉末、炭の粉などを加えて練り、成形・乾燥させたものが、匂い線香です。日本の匂い線香の7割は、兵庫県の淡路市で生産されています。

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  044
  蓮の香があるそうですが?

 あります。蓮の花の香気成分を科学的的に分析すると、いわゆる香りは、品種によって微妙に違うようです。「蓮の香りの正体」については、「蓮のQ&A」12 や、「蓮通信」35号3頁を参照ください。
 蓮の香りは、相対的に甘さの中に少し薬くささのある、フェノール系の清々しい香りで、蓮の神秘的な香りを特徴づける成分です。この成分は、ライラック、ヒヤシンス、ペパーミント、桜などにも含まれていますが、蓮ほど多くはないそうです。ちなみに、分析した数値を基にして、人工香料を調合すれば、どのような匂いも造れるそうです。
 蓮の香水とされるものは、エッセンシャルオイルではなく、溶媒で抽出したアブソリュートと呼ばれるタイプで販売されています。それは茶色なので、そのまま肌につけるのではなく、他のものと混ぜて使用されています。
 そんなわけで蓮100%Pureとか、Essential oilと謳った、インド産やイギリス産の香水が、ネット上で販売されていますが、内容
や使用法には注意したほうがいいです。
 2007年、東京大学は創立130年の記念事業として、東京大学グッズを売り出しました。焼酎やサプリメントなどと共に、蓮の香水「蓮香 RENKA」( 2,100)を、資生堂と共同開発して販売、大きな話題になりました
 また、女性用には蓮の花を、男性用には蓮の葉を、それぞれ用いたオードトワレ「ローパケンゾープールオム」や、「ジバンシー」「ショパール」などが売られています。いずれもロータスフラワー・アブソリュートの入った製品です(Z)。

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  045
  
聴覚で、蓮を楽しめるか?

楽しめます、Jazz のなかに蓮の花があるからです。モダンジャズと蓮の花は、なかなか結びつかないと思われますが、「蓮の花」の曲があります。ジャズが生まれたアメリカには、太古より蓮の花の原種の一つである、黄色の蓮 Nelumbo lutea があり、それらの野生種は今もアメリカの各地で咲いています。また、ロスアンジェルスやワシントンDCでは蓮祭りが盛大に行われています。
 トランペッターのKenny Dorham(1937〜72)が、1950年代に作曲したLotus Blossamです。1959年の録音がKennyのアルバム「Quiet Kenny静かなるケニー」に入っています。Kennyの暖かみのある演奏は、日本人に好まれ、多くのCDに入っています。
 Duke Ellington and His Orchestra の編曲を25年担当した、作曲家の Billy Strayhorn(1915〜67)にも、 Lotus Blossam があります。1967年に録音されたLotus Blossamは、Strayhornの追悼
版「… and his mother called him billy Duke Ellington」に入っています。
上記2曲は演奏のみですが、2004年に発売された「Ketty‐Kmeets Ray Bryant 蓮 HASU」には、名ピアニストRay Bryantの演奏で、日本人歌手のKetty‐Kが、自身で作詞・作曲した Lotus Blossam(蓮の名前になった母)を歌っています(Z)。

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  046
  交響楽で、蓮をたのしめるか?

 本格的に楽しめます。例えば、G・マーラーの「大地の歌」がそれです。これまでその存在は知っていても、心して聴いたことはありませんでした。まず図書館へ。板橋区立(中央)図書館に、カセットの「大地の歌」が4種類もあって仰天しました。
 L・バーンスタイン指揮、ウィーンフィルのものを借りて、家で何度も聴きました。約1時間、歌詞がドイツ語の交響楽をこんなに聴くのは、たぶん最初で最後でしょう。
 作曲は1908年(明治41)、マーラーにとっては第9番目の交響楽です。計6つの楽章から成ります。1章(大地の悲哀 …)、2章(秋に寂し …)などは、その楽章名のように、ややペシミスティックで、倦怠を感じさせます。ところが、
 ユンゲ メーティヘン プリュッケン …
とバリトン独唱ではじまる4章「美について」では、一変します。それは蓮の花をつむ乙女と、駿馬にまたがる若者とを、美しく、ダイナミック表現しています。その歌詞がじつは、李白の「採蓮曲」をベースにしていると知って驚くのは、小生だけではないでしょう。

 若耶谿(じゃくやけい)の傍(かたわら)で
 蓮を採る女 笑いながら荷(蓮)を隔てて
 人とともに語らう … 
 岸の上には誰かの家の遊冶郎(ゆうやろう)…
 8世紀の李白の詩が、20世紀の初頭、訳詩集『中国の笛』(ベートゲ)に採られ、ドイツで愛読されていたのです。マーラーもそれを読み、感動した結果が「大地の歌」となったのです。じつに壮大かつ華麗な文化交流ではないでしょうか!
 図書館のカセットだけでは満足できず、美しいジャケット(写真)の CD(これも種類もあり)を買ってしまいました(G)。

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  047
  日本にも「聴覚の蓮」はあるか?

 あります。外国のジャズや交響楽だけでなく、日本にも蓮の花をテーマとし、イメージした楽曲はたくさんあります。たとえば、「蓮花」がそれです。
 作詞は海老名香葉子、作曲は谷村新司で、林明日香が歌っています。
 蓮華の花が開いた 思い溢れて うす紅の花が開いた 露は涙に似て 時は逝き人は流れ ビルは空に向かい 伝えいく心忘れて… この花のうす紅の意味 歌う風 になりたい…
 この「蓮花」を聞いていると、そのやさしく力強い歌声が、聞くものの心を包み、揺り動かすように感じられます。「蓮花」のブログによれば、この歌が2005年に作られたのは、東京大空襲(昭和20年3月10日)の犠牲者を弔い、その惨状を後世に伝えるためだったそうです。
 上野の杜に、海老名香葉子が発願者となり、慰霊碑「哀しみの東京大空襲」と、母子像「時忘れじの塔」が建てられました。)。
CD「蓮花」のジャケットには、この母子像がイラストとして描かれています。またこの「蓮花」は、「あした元気にな〜れ! 半分のさつまいも」というアニメ映画の主題歌になりました。アニメの原作はやはり海老名香葉子です。作中の主人公かよ子は、東京大空襲で6人の家族を失いますが、生き残った兄とともに明るく、たくましく生きていきます。関心のある方は、製作委員会のHPを、どうぞ。
 歌っている林明日香は18歳(1989年生れ。大阪。13歳でデビュー)のシンガーソングライターです。すでに高い評価を得ており、谷村新司も「心に響く歌」と絶賛していますが、わたしも同感です(O)。

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  蓮の花と人形、関係ありますか?

 大いに、あります。蓮の花と人形の結びつきの最古は、紀元前5〜6世紀までさかのぼります。インドやパキスタンなどで出土したテラコッタの人形の髪を飾っているのは、まさに蓮の花ではないでしょうか? これらのテラコッタ人形は、大地の地母神の像(蓮女神像)であり、蓮の花飾りをつけた女性像なのです。
 当時の農耕社会において、大地こそが五穀を生産する「母」でした。インドの古代人は、蓮の花を豊饒、生産、多産の神として神聖化していました。この母なる大地に、蓮の女神の像を捧げて、祈ったのでしょう。
 日本にも、中国にも、蓮の花を持ったり、蓮の葉を手にした人形があります。その素朴さゆえに、見る人の心をなごませます。
 現在の日本に、蓮の花と正面から対峙して人形を制作している作家がいます。それは、当会の理事である木暮照子さんです。木暮さんは、古代蓮で知られている行田市に住み、蓮の花とともに過ごしています。

 春になり、蓮の葉が水面に顔を出すころから、彼女の観察が始まります。やがて立葉が成長すると、蕾が出てきて、20日ほど
すると大輪の花を咲かせます。花が散ると、まもなく果托になり、葉が枯れるまで、ほとんど毎日のように、蓮の花を観察して人形制作をしているそうです。
 誰よりも行田蓮を観察し、その観察眼から生まれる塑像の蓮人形は、清楚で凛としていますが、時には艶容なものもあります。そんな蓮の人形を産みつづける木暮照子さんは、日展や新日本工芸展でも活躍しています。代表作を収めた写真集『蓮・心・形』(2006年)があります(Z)。

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  049
  蓮の提灯があるそうですが?

 あります。もともと提灯(ちょうちん)は、照明器具の一種です。その用途によって、小田原提灯、道中提灯、盆提灯、高張提灯、弓張提灯など、いろいろとありました。これらの提灯には、無印のものはなく、家紋、家名、屋号などが描かれ、書かれていました。
提灯を最初に記録したのは『朝野群載』(1085年)とされます。そこに記されているのは、寺院や上流階級の者が儀式や祭礼に使用したと思われます。
現在よく見られる蓮文様の提灯は、以下のように2種類に大別されます。
 その1は、提灯に蓮文様を描いたものです。主なものとしては、お盆のときに仏に飾る盆提灯や、灯籠流しに用いる灯籠です。どちらにも、蓮の花が描かれています。また、家紋としての蓮の花を描き、飾っているところもあります。
 その2は、提灯そのものが蓮の形をしたものです。日本ではあま
かけませんが、中国や台湾、韓国では多く見られます。1920年代の中国で、お盆の行事を描いた図譜では、蓮の花の形をした提灯や、蓮の葉にロウソクを立てて、街を行列しています。中国、台湾、韓国の蓮の花の提灯は、形や色がじつに多彩です。
中国や台湾では、蓮の花の提灯を描いた切手が、何種も発行されています(Z)。

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  050
  蓮の実の甘納豆って、美味しい?

 とっても美味しいですよ(甘党には、うれしいQ&Aです!)。写真のように、ちょっと見には、小さな栗か、大きめの大豆、その甘納豆のようです。でもじつは、蓮の実でつくった甘納豆なのです。
 マメじゃないのに、甘納豆とはおかしい? そう思うのですが、それ以外にいい名前がないのです。「甘納糖」としているお店もあります。もし、いいネーミングがあったら、どうか教えてください。
 その味や口あたりは、1点を除けば、いわゆる甘納豆と同じです。1点というのは、わずかに苦味があることです。そうです、大人の味なのです。この苦味は、蓮の実のなかにある蓮心(れんしん、芽となる部分)の味です。もとは緑色をしていて、目がさめるほどの苦味があり、漢方薬にされるそうです。
 日本製では、銀座の鈴屋や、埼玉県行田の十万石のものが、美味しいです。蓮の実の甘納豆ならではの味がし、形がよく、こわれも少ないからです。売場の人に聞いたことですが、「材料の
蓮の実は中国産」とか。製品でも最近は、台湾など外国産がかなりハバをきかせています。
蓮の実には、聞くところによれば、脳をよくする作用があるとか。それに甘い味は、五臓六腑の胃や脾にいいとか…。そんな難しいことはともかく、蓮の実の甘納豆は美味しいのです(E)。