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蓮は、植物分類では、被子植物門(Anthophyta)の双子葉植物網(Discotyledonopside)に属しています。その中でも蓮は、比較的早い時期の白亜紀後期、約1億年前には地球上に出現した古い植物です。蓮の化石は、北アメリカ、アラスカ、日本、ロシア、中国、ヨーロッパなど、そのほとんどが北半球から発見されています。 蓮の原産地については、エジプト説、インド説、中国説などあります。ただ、それを特定できる遺物が発見されておらず、まだ未定の状態です。 エジプト原産地説は、西洋人が睡蓮と蓮を混同したのが、そもそも間違いの元でした。古代エジプトの遺跡に描かれているのは睡蓮であって、蓮の花ではありません。エジプト学でいうロータス(lotus) は、睡蓮のことです。エジプトに蓮の花が持ちこまれたのは、末期王朝時代の紀元前700〜300年頃とされています。 インド原産地説は、インドで生まれた仏教が、蓮の花と深くかかわっているからと思われます。紀元前3000年前のインダス文明の遺跡から発見された地母神像の髪が、蓮の花で飾られています。このことからも、インドでも古くから蓮が生育していたことが分かります。 |
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中国原産地説は、中国の新石器時代の河姆渡(かぼと)文化遺跡から蓮の花粉の化石が出土しています。同じく新石器時代の大 口(だいもんこう)文化遺跡からは、蓮の果托のデザインをもつ陶器「白陶封口 」(ふうこうき)が発見されています。また、蓮文様が描かれた画像磚(がぞうせん)、青銅器、瓦などの考古遺物がたくさん出土しています。近年、黒龍江省の各地で野生蓮が発見されていますが、まだ決め手にはなっていません。 日本でも蓮が自生していたことは、約7000万年前から1万年前の「蓮の化石」が各地で発見されていることからも証明されます。(Z) |
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日本の蓮の花には、一部の地蓮(じばす、その地方に生息する蓮)を除き、全て品種名がついています。今日、「古代蓮」が一人歩きして、蓮の花の品種名と思われていますが、じつは「古代蓮」とは、まだ品種名がついていない名前未詳の花のことです。 古代蓮という名前は、昭和30年代までは使用されていませんでした。蓮の研究に尽力された大賀一郎氏が、戦前、中国・大連市近郊の普蘭店で発掘した、約1000年前の古蓮の実を開花させ、その蓮の花をフランテン蓮、別名を中国古代蓮と呼んだのが、古代蓮という名前の最初です。その図版の初出は、北村文雄・阪本祐二の共著『花蓮』(1972年)です。 大賀一郎氏は昭和26年、千葉市近郊の検見川で、蓮の実を、約2000年前の泥炭層から発見し、昭和28年に開花させました。当初はこれを「二千年蓮」と呼んでいました。後に「大賀蓮」と命名されて、今日では、蓮の花の代名詞のようになっています。 古代蓮という名前が一般化するのは、埼玉県行田市で、昭和48年、ゴミ焼却場を造成中に、地中で眠っていた蓮の実が機械で傷つけられ、自然発芽して咲いたのが発見されてからです。 |
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それは年代測定の結果、約1500〜2000前の蓮であると判明しました。行田市ではとくに品種名をつけず、「行田の古代蓮」と呼んでいました。古い蓮だから単純に古代蓮と呼んだものと思われます。 その後、行田市では天然記念物に指定して、それを保存するために蓮公園を造成、1995年に一部を開園し、2001年4月には「古代蓮の里」として竣工しました。この開園に合せて「古代蓮」にふさわしい名前を市民から募集しました。 その結果、名前未詳の蓮は「行田蓮」に決まりました。この間、考古学ブームとも重なって、古代蓮やその話題が全国に伝わって、品種名と思われようになったのです。(Z) |
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蓮の花に何種類もの色があることを記した最初の書物は、インドで生まれた仏教の初期の仏典であり、次のような蓮ないし睡蓮が載っています。 utpara,uppala(昼咲き青睡蓮) kumuda(夜咲き白睡蓮) padoma(赤い蓮) pundarika(白い蓮) 上記の蓮ないし睡蓮を漢訳する時、音写のほかに、安易な意訳をおこなったため、重大な誤解を生じました。 まだ見たこともない花の色が、あるものと思って訳してしまったからです。この四つを、訳し分けに苦心して、utparaを青蓮、kumudaを黄蓮、padomaを赤(紅)蓮、pundarikaを白蓮と、それぞれに、色で無理に区別しました。 当時インドと中国には、紅蓮と白蓮が生息していましたが、青蓮と黄蓮は生息していなかったはずです。青蓮はまだ発見されていませんし、アメリカ産種の黄蓮を日本人が最初に見たのは20世紀に入ってからです。 |
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蓮には、紅色・白色の花を咲かせる東洋産種(Nelumbo nucifera)と、黄色の花を咲かせるアメリカ産種(Nelumbo lutea)の2種類があります。これら東洋産とアメリカ産の蓮は、地球上に誕生したごく早い時期に別れたものと思われます。 この紅蓮・白蓮と、黄蓮とは、花の色が異なるだけで、形態や染色体の数は同じです。ですから、互いに交雑して新品種を作ることが出来ます。 さて、原始の蓮の花はどんな色だったかと申しますと、紅色だと思われます。その紅蓮の花弁のごく一部が、まれに突然変異で白色に変わることがあります。 原始の蓮の花色が、紅蓮から、アジアでは白蓮が、アメリカでは黄蓮が突然変異で生まれたようです。しかし、誕生した代は残念ながら不明です。(Z) |
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蓮は、花を観賞する観賞蓮、蓮根を収穫する食用蓮に大別されます。また、蓮の実を収穫する品種もあり、近年、中国では太空蓮などが作出されています。ここでは、観賞蓮の品種についてのみ記します。 蓮を栽培するには広い池が理想ですが、ほとんどの人は品種保存と栽培場所の関係で「鉢植え」で育成しています。蓮の花は栽培条件によって、花の咲く時期、花径、茎の丈、葉の大きさ、花弁の色などがかなり違うことがあります。この花径の大小、花弁の色、花弁の数によって分類します。 花径の大小では、大形種(花径が26p以上)、普通種(花径が25p〜16p)、小型種(茶碗蓮・花径が15p〜9p)、碗蓮(花径が8p以下)に分けます。 花弁の数では、一重(花弁数が25枚以下)、半八重(花弁数が25〜50枚)、八重(花弁数が50枚以上)で、などとなります。 花弁の色では、白蓮系統(花弁全体が白)、紅蓮系統(花弁全体が紅)、黄蓮系統(花弁全体が黄色)、斑蓮系統(花弁に紫紅色の斑が入る)、爪紅系統(花弁の先端や縁に紅色)、黄紅蓮系統(淡い黄色の花弁の先端や縁に紅が入る)、に分類しています。 |
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金子明雄著『花蓮百華』(2002年)には、故内田又夫氏が収集した巨椋(おぐら)池の蓮を主に、168品種の写真が掲載されています。 中国の王其超 ・張行言著 『中国荷花品種図志』(2005年)には、 608品種の写真が掲載されています。 わが国でも新品種の作出が盛んに行なわれていますが、全体像はわかりません。各地での呼称に従えば、在来種で150数種、近年作出された品種を加えると、中国と日本を合せて約 900品種以上ありそうです。 なお、一番多い品種は一重の紅色、次が一重の白です。八重の黄色や、八重の斑種は品種があまりありません。(Z) |
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蓮と睡蓮は近年まで、生育環境や花容が似ているところから、同じ水生植物の仲間と考えられ、睡蓮科に属していました。 しかし、近年の目覚ましい科学の進歩で、DNA塩基配列、ミトコンドリア遺伝子、染色体遺伝子、花粉構造などの研究の結果、蓮と睡蓮は従来考 えられていた進化とは、まったく違った進化をしてきたことがわかりました。 これらの研究によると、睡蓮は被子植物の誕生の初期に分化した「古草本群」に入り、蓮は比較的後に分化した「真性双子葉植物」に入ります。この違いは花粉の形態によくあらわれています。 古草本群の睡蓮は、発芽溝が花粉の周りをとりまいた周芽溝をしていますが、真性双子葉植物の蓮は、三個の発芽溝からなる三溝粒の花粉をもっています。 蓮と睡蓮を花粉交配しても受精できません。 最新の植物分類学で、蓮は蓮科(Nelumbonaceae) 、蓮属(Nelumbo)であり、睡蓮は、睡蓮科(Nymphaea-ceae)、睡蓮属(Nymphaea)に属します。両者はまったく異なる植物に分類さ |
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れています。だが、多くの書物はいまだに、睡蓮科・蓮属という旧説を採用していて残念です。 ところで、蓮と睡蓮の簡単な見分け方があります。蓮は花の中央に雌蕊が入っている花托がありますが、睡蓮には花托がありません。蓮の花弁はふっくらして幅が広いですが、睡蓮の花弁は細長く花弁の先端が鋭角的です。 また、蓮の葉は丸いですが、睡蓮の葉には深い切れ込みがあります。蓮の地下茎は食用のレンコンになりますが、睡蓮にはレンコンが出来ません。 花色では青い睡蓮はありますが、青い蓮はまだ発見されていません。(Z) |
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野生の蓮とは、人間が管理することなく、大自然のなかで自らの生命力により、生育している蓮のことです。 この地球では、蓮をふくむ植物は、人間をふくむ動物よりも、はるかに先輩格です。 その証拠には、蓮の化石(葉や実など)が、ユーラシア大陸や北アメリカ大陸から出土しています。それらの化石は、今から7000万年〜1億年以上も前のものです。人類の歴史はせいぜい700万年でしょう。 約46億年とされる地球の歴史には、4回の氷河期や火山の大噴火、隕石の衝突などがありました。そうした環境でも、蓮は生育をつづけてきました。 ごく最近に確認され、写真のある野生の蓮を3つだけ紹介します。 北米、USAウイスコンシン州ポーテジは、ミシシッピーの最上流にあたります。湖沼と畑、それに牧草地で、ほとんど無人の |
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場所です。そこのマッド(泥)湖に、群生するアメリカ黄蓮がありました(左)。 オーストラリア大陸の北部中央、カカドゥ国立公園の湿地帯には、赤系の野生蓮が生育し(中)、先住民のアボリジニは、この蓮の根や実を食用、薬用にするそうです。 アジア大陸の東北部、ロシアと中国の国境をなすアムール川(黒龍江)の中流域(北緯48度!)に、ピンク色の野生の蓮が生育しています。ごく最近、ロシアと中国の研究者により確認されました(右)。(G) |
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花蓮というのは、蓮の花のことではありません。花を咲かせる蓮を、わざわざ花蓮というのには、それなりの理由があります。 人間が蓮に関心をもったのは、主にその根の部分でした。レンコン(正しくは、根ではなく、地下茎)です。食材として、胃袋の要求を満たすために、注目したのでした。今から約3000年前、中国人は約40種類の植物を食べていました。その3分の2を採集し、レンコンをふくむ3分の1は程度の差こそあれ、栽培していました。ちなみに中国語では、蓮を荷(ホー)、レンコンを藕(オウ)と区別しています。 蓮の実もまた、レンコン以上にデンプンなど栄養素の固まりであり、歓迎されます。 実の中心にある緑色の部分は、胚芽(はいが)で、生長はここから始まります。この部分はとても苦く、漢方薬にもなります。中国の江西省広昌のように、唐代から実を目的として蓮を植え |
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る産地もあります。 その目的がレンコンであれ、実であれ、蓮には、美しい花が咲きます。それを観賞するのが観蓮(かんれん)です。この観蓮をより楽しくするために、特長ある花を咲かせる蓮を、とくに花蓮と呼ぶようになりました。新しい言葉です。日本では、1970年代くらいからで、中国語や英語にはまだこれに相応する表現がないようです。 花ショウブや花カタバミのように、花蓮もいずれ「市民権」を得ることでしょう。(G) |
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蓮は、伸長する地下茎から立葉や花を出します。この先端部や、分岐部の肥大した地下茎を「蓮根」といいます。 蓮根を植えますと、品種の同一性(同一遺伝子)を保持することができます。 蓮根植え込みの時季 気温が15℃以上になると芽が伸びますが、15℃以下に下がると成長が止まります。日に10cmも茎の伸びる花蕾が、梅雨期に枯れるのもこの為です。蓮根の植え込みは、外気が安定する桜前線の経過以降、青葉の萌える前を目処にすると冷害を避けられます。 (気象庁DATA http://www.data.kishou.go.jp/etrn/) 蓮根の掘り出しと切り離し方 折れ、傷付け、芽欠きに注意し掘り出します。伸長地下茎から分岐した蓮根は、分岐部をT字型に付けて切り出してください。 土の用い方 田土、畑土、黒土等の腐敗臭のない土を選び、礫やゴミを除去し細かくほぐし用います。 |
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肥料の与え方 窒素N、燐酸P、カリK等の養分が元肥として必須です。有機肥料は完全発酵のものが可。追肥は半月ごとに5-5-5系のものを少量(土、水合わせ50リットルに対し10g程)与える。与え過ぎると葉に異常が生ずるので、水を入れ替えて薄め、適量を掴む必要があります。 植え方 小型種以外の品種は、丸型の穴の無い(高さは最低30cm必要)容器に、元肥を加えた土を高さ2/3程入れ、土の半分程の深さに植え込みます。(頂芽を水平か、やや下向きにする)水は1/3ぐらいの高さに張り、常時枯らしてはなりません。(T) ※蓮用配合の元肥、追肥が販売されています。 (株)中央肥料 TEL 0476-92-1108 |
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実の発芽処理時季、気温 蓮実を4月中旬に発芽処理し、温度(15℃以上)と光(電光でも良い)を確保して成長させ、5月末から6月初旬頃にかけて鉢等に植え替えますと、9月頃までには開花も可能です。 発芽のしかた 蓮実は1o厚程の固い外種皮に覆われいてます。水に浸すとこれがふやけますが、発芽率は極端に低いのです。外種皮の一部(臍部)を欠き容器の水に浸すと、膨張率の高い胚乳の吸水で外種皮が割れ、胚乳も膨らみ二つに開きます。このように発芽処理をすると、芽の発芽率は飛躍的に高まります。 外種皮の欠き方(発芽処理方法) 実の外種皮が僅かに盛り上がる臍部の中心には切れ味の良い小型ニッパー(最適の刃物)で胚に傷がつかないように臍部 |
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(図参照)を切り取ります。 芽の成長と植え込み方法 発芽処理後、高さ10cm以上の水中に発芽処理した実を沈めておくと、気温が高ければ(15℃以上)4、5日目頃には発芽を確認出来ます。以後、根の出始める頃までに鉢等に植え込みましょう。 蓮実を発芽発芽させて、蓮の花を咲かせることが出来ますが、親とは異なった品種となります。(T) |
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よく「蓮と睡蓮の違い」の説明で、葉が水面に浮かんでいるのが「睡蓮」で、水面から立ち上っているのが「蓮」だとあります。これはすこし問題です。 なぜなら、蓮にも、水面に浮かぶ葉があるからです。春、去年までに成長した蓮根の先端の芽から出る葉は、水面に浮かびます。これを「浮き葉」と呼んでいます。 2〜3枚水面に浮かぶ葉が出た後、新しい根茎から出る葉は、様子が異なります。浮き葉よりも葉柄(ようへい)が太く、表面が硬い組織に変化する葉なのです。これを「立ち葉」と呼んでいます。 この葉は水面から出てくる時は、左右から内側にくるっと巻いた状態で、葉柄に対して斜めの状態です。この形から「シュモク(撞木)葉」と呼ばれます。浮き葉の成長は、種(たね)蓮根の貯蔵養分でまかなわれますが、花芽をあわせ持つ立葉を形成する上でも、大事に育てることが良いと言われています。 種子から発芽させた場合は、まず内蔵された幼芽から3枚以上の浮き葉がでます。その後、新しい根茎が伸び て栄養状態が整ってはじめて、立葉となって花が咲くのですが、形態的には「浮き葉」の状態のこともあります。 |
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「浮き葉」が出てくる時、葉の色が赤味を帯びているのは、強い光線から幼葉を守るためだと、言われています。 蓮の葉にある気孔はほとんど葉の上面に在ります。浮き葉も立葉もそうです。 二十数本ある葉脈が集まった中央の荷鼻(かび)は、葉柄から地下茎へとつながっています。ここを通り、酸素は、地下茎の節部にある根の細胞まで供給されます。 気孔は、すでに述べたように、葉の上面にあります。水深の深いところで生育している蓮も、それなりに葉柄を伸ばして適応しています。また、洪水などで急に増水した時は、一晩に数十センチも伸長して対応するそうです。短期間に水が引くと、柔らかい茎が葉の重みで折れてしまい、枯死することもあるそうです。 かつて伊豆沼(宮城県)の蓮が台風による増水で水没して、大打撃をうけたことがありました。水に生える蓮ですが、同時に、水に弱い一面をも持っているのです。(K) |
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